一話一膳
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本日のお品書き
カラ付きだから、美味しそう。
ホタテのバター焼


読者さま 「あのさ、難しいんだよそういうの」
わたくし  「何が?」
読者さま 「なんだその、片栗粉、ってのは?」
わたくし  「ナンだと言われても」 
読者さま 「どこに売ってるんだよ」
わたくし  「スーパーじゃないか」
読者さま 「ビンに入ってるのか?」
わたくし  「ビン?」
読者さま 「ほら、その、食卓塩みたいな、赤いフタの・・・」
わたくし  「袋に入ってるね」
読者さま 「なんだフクロって?」
わたくし  「袋はフクロなんだけど」
読者さま 「買うの面倒くせえよ、もっと簡単なのないのかよ?」


  およそ料理の初心者、特に独身男性はこういうものである。
  僕は初心者に毛の生えたレベルの家庭料理人だが、本当の初心者というのはこのくらいのレベルからスタートするのだ。受験にたとえれば、「なんだよその他動詞ってのは」と言いながら第1志望は青山学院大学、というところか。たぶん大学の名前は青学しか知らなかったのであろう。 

  しかるに、ここで僕が嘆いても仕方がない。 
 どこまでレベルを落とすか、その低いレベルでどこまで満足してもらうか、それがプロ(じゃないけど)の腕の見せ所である。      

 今回は、洋風でありながら和風、ホタテのバター焼に挑戦する。
 バターが洋風、しょう油をたらすことで和風でもあるのだ。殻がついたまま焼くので見栄えも良い。
 いかなる初心者でも作れると思うのだが不安が残るので、レシピに入る前に食材の揃え方から説明しよう。

1、スーパーに行く
2、魚売り場で殻つきのホタテを1つ
3、調味料売り場でしょう油を1ビン
4、乳製品売り場でバターを1個
5、レジでお金を払う

 まず2、ホタテの購入に苦労するだろう。
 殻つきのホタテは、パックに入っていない。魚や貝をむき出しで売っているところに行って探す(入荷のない日も多い)。旬は冬から春だが、秋以外は入荷が多い。
 殻つきのホタテは必ずまだ生きているので、全て刺身用。売り場のおばさんに「そのままで良い」と告げてビニール袋などに入れてもらう。処理を頼まないときは、1個からバラ売りしてくれるので安心してください。

 次に3、しょう油の購入は大丈夫だろう。
 調味料とは塩や砂糖や味噌など。「味をつけるものを売っているな」という箇所を探せばすぐ見つかる。よく売れる商品なので目立つところにあるし。

 その次の4、乳製品売り場が難関だ。
 牛乳やチーズを売っているところ。わからないなら、店員さんにズバリ「バターはどこですか」と質問してください。スーパーの店員は「××はどこですか?」という質問に慣れているから、恥ずかしがる必要ナシ。


 さて台所に行きます。
 調理用具は包丁(まな板不要)と盛り付ける皿とバターを取るスプーン。ガスレンジの下に「魚焼き器」がありますから、火事にならないように受け皿に水を入れてください。やっとレシピです。



◆材料(1人前)
殻つきのホタテ1枚
バター小さじ半分
しょうゆ小さじ4分の1
 
◆手順
1.水を入れた魚焼き器を5分ほど熱する
2.1をやっているあいだに、殻つきのホタテの片面に包丁を入れて、殻と身を離す(殻の片方はこの時点で捨てる)
3.2を魚焼き器に入れる(できるだけ弱火)
4.2分くらいしたら3の様子を見て「まだ生っぽいか?」と思ったら、バター小さじ半分をホタテの身にのっける
5.1分くらいしたら4の様子を見て「でも生っぽいか、でもでもバターが焦げて来てないか?」と思ったら、しょうゆ小さじ4分の1をホタテの身にかける
6.20秒くらいしたら完成

 ホタテは大きいほど旨い。
 包丁で殻と身を離すとき、身の一部が外した殻に残るが、綺麗に取るのは包丁ではムリなので気にしないように(殻剥き専用の器具も市販されてはいるが不要)。

 焦げるのが恐いだろうから、もしあれば魚焼き器ののぞき窓から様子をうかがう。
 最初からバターを入れると、ホタテに火が通るまえにバターが焦げるから手抜きしないこと。刺身でも食べられるものなので、火の通りが足りない感じでも旨い。火を通しすぎるほうがまずくなるので、早め早めに勝負をかける。

 しょう油が少ない?と思うだろうが、殻つきのホタテは塩分が強いので大丈夫。
 食べても味が足りないなら、食卓でしょう油を追加すればいい。料理は、味を足すことはいくらでもできるが、薄めることは基本的に不可能なもの。


 さあホタテを取り出して皿に盛り、缶ビールをプシッーと開けよう。

 少しだけ焦げたバターとしょう油の良い香りがたちこめる。

 火の通り加減を見ていたその過程、それこそ貴殿が料理をしたという証なのだ。
 



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