一話一膳
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本日のお品書き
足の数を数える人がときどきいる。
イカゲソ焼き


 食材は、あまる。
 「あまったら捨てろよ」などという輩もいる。しかし、食材を愛するものは、そのような愚挙には及ばない。使い切る。

 スルメイカを1パイ買った。
 イカは、安い。とくに刺身にできるスルメイカは、どんなに高くても250円程度だ。普通は150円前後。本体を刺身にして1人前。翌日までは刺身で食べられる、ありがたい魚類である(魚じゃないかな?)。

 スルメイカを、さばく。
 内臓を捨て、皮をむく。本当の通は内臓で塩辛なぞ作って楽しむが、まあそこまで行かなくてもいいだろう。本体にひそむ軟骨を取り除き、切る。皮むきまでが難しいというのなら、お店の人にやってもらえばいい。

 瞬く間に1人前の刺身ができる。
 まな板には、エンペラと呼ばれる三角の部分と、イカゲソと呼ばれるイカの足(10本)が残っている。これをどうするべきか。たいした量ではない。翌日の焼きソバの具に加えるのが普通だが、それだけではタンパク質系の具として物足りない。

 取るに足らない、ゲソが残っている。
 これをいかにして使い切るか。イカ刺しを食べんとしているのだから、酒は日本酒のはずだ。何か、利用する方法はないか?


◆材料(1人前)
スルメイカ1パイぶんのゲソ
しょう油 大さじ1
大さじ1
砂糖 小さじ4分の1
 
◆手順
1.イカゲソを切り離す(エンペラも適当に刻む)
2.しょう油、酒、砂糖を混ぜ、1を5分ほど漬ける
3.アルミ箔に2を載せ、魚焼き器(極弱火)で1〜2分焼く


 ゲソの根元も食べられる。
 2の調味料は適当でも問題ない。3の過程で焦げることを気にする人はイカゲソの先端を切っておくのが正式な方法だが、そこまで追求しなくても良い。しょう油の焦げた香りがおもむきを添えるからだ。

 原則的には、そのまま食べる。
 好みによって薬味を加える。おろしたショウガがベスト、次善は写真のようなワケギの輪切りだろう。

 大切なのは、盛り付けだ。
 何より少量なので、できるだけ小さな皿か鉢に盛る。一品の料理というよりも、さりげなく食卓の隅に置かれるくらいが、ちょうどいい。

 ナンだこれ、と人は箸を伸ばすだろう。
 お、結構旨いなと思った次の瞬間、この料理は食べ終えている。ナンか知らないけど、旨かったなという印象だけが残る。

 この料理を作った者は、食材を見事に使い切った恍惚感にひたる。
 食べてしまえば何も残らなかった、これが料理を作る楽しみの大きな一部なのである。
 



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