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その生徒は、10分の遅刻だった。たった50分の体験授業で。
体験授業はもちろん無料だ。そこで入学してくれさえすれば元が取れるから。だからというわけではないだろうけど、遅刻・ドタキャンは結構多い。欠席の連絡すらしない。タダなんだから関係ないじゃん。まあ、そうかもしれない。
彼女は講師である僕に起立して遅刻を詫びた。まず謝罪、そしてその事情の説明。その順番が逆になると、言い訳→謝罪というように聞こえて失礼になる。「すいませんでした。道に迷ってしまって…」
授業が終わった。最後の挨拶を僕はする。「お疲れ様でした」、そう言って頭を下げる。これは僕がこの8年間守ってきた大切な習慣だ。もちろん、彼女も礼をしてくれた。そして入学のシステムを説明する職員が教壇に上がる。僕は教壇を降りる。
彼女は再び起立して「本当に申し訳ありませんでした…」とつぶやくように、しかし確実に僕に届く声で言った。体験授業を担当させてもらって7年、初めての経験だった。
彼女ができれば市進千葉校に入学し、僕のクラスに入ってくれればいいと思う。喜びは共有したいものだからだ。でもまた一方で、どこの予備校に行ってくれてもいいと思う。きっといい結果を1年後に手に入れるはずだから(もちろん必ずそうなるわけではないが)。
傲慢さを売りにしながらも、礼儀を携えて授業をしていきたい。そんな当然のことを確認させてくれる素敵な生徒だった。 |
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