予備校講師でわるかったな！

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理想を目指して

12月5日

  城南に行くときは、最終講だけスーツを着る。
  城南予備校に出入りする１部の大人の服装に大いなる不満がある。悪口になるからここでは書かないけれど、僕は自分なりの主義を持って服装を決めるのだ。

  スーツとＹシャツはオーダーメイド（デパートだけど）。
  ネクタイはエルメス（免税店で買ったけど）。
  靴は黒のリーガル（つまり安物）。
  カフスとネクタイピンは銀座の和光。

  とにかくビシっとして行くわけだ。
  それでいて授業はいつもと全く同じ。
  たしか去年は「最後だからといっていい話はしない」と宣言した記憶があるので、今年は変えておく。

「特別な話はない。授業もいつもと同じ。最初の１回も、第６講も、最終回も授業の価値は同じだからだ」

  まあそりゃそうなんだけど、もう少し気の利いたことを言ってもよかったかもな。

  面白い質問が来た（♀生徒様）。
  彼女はＩＭクラスだが、１つ上のＥＸクラスのテキストとノートを入手して勉強しているそうである。

Advances that promise to better the lot of some in society often threaten others in the process.

これは「同じ意味の lot を持つ英文を選べ」という成蹊大学の設問である（選択肢は省略）。成蹊って、語彙問題がかなり難しいんだよね。

  語彙に関する質問は非常に珍しいのだが、彼女の質問ポイントが秀逸だった。
「どうやってこの lot の意味を割り出すのか」
「この英文はつまりどういう意味か」

僕からの逆質問は以下の通り。

「promise to の意味はわかるか」
「better の品詞は何か」
「others はどの言葉と呼応しているか」

  彼女は３つともズバリと正解を出してくる。やるじゃん。

  結論は「 lot ＝運命」であり、選択肢は２つまで絞れば御の字（おんのじ＝嬉しいさまのたとえ）である。
  よし、サービスしてやっか。

「じゃあさ、 lot ってのはミニロトとかロトシックス（注：いずれも宝くじ）でわかるように『くじ』って意味があるじゃん」
「あ、知ってます、それ（笑）」
「おい、女子高生がか。やっぱ所ジョージってすげえな。でね、 lot ってのは『割り当てる』ってことなのよ」

メモを書く。

lot ＝くじ ←割り当てる
lot ＝運命←割り当てる
                ↑
         （１         ）が（２        ）に（３        ）を

「わかる？」
「１は、神！」
「おおおおお（強い感動）。きみ、賢いね。そこがわかれば２は簡単。漢字２文字、１文字でもいいよ」
「人ですね」
「正解。３はムリかな。職業なんだよ」
「・・・？」
「神様が人間に職業を割り当てるんだ。お前は頭が悪いけど可愛いからタレントだ。無能だけどあやとりがウマイからあやとり芸人だ、みたいに」
「それって、運命なんですね」
「そういうこと」

電子辞書を取り出して lot を出す。

＞「割り当てられた部分」が原義

「ほらね。というわけで、君はこの単語は一生忘れません。ま、あんま出ないと思うけど、損することはない」

  いつもこういう授業を提供できればいいんだけどな。
  「全ての授業は同じ価値を持つ」というのは、実は僕の目標なんですね。

追記：「割り当てられた部分」という辞書の記述は見たことがあるが、説明しているときは覚えていなかった。それなのにこういう説明ができるのは、 He is cut out to be a teacher. （彼は教師に向いている）という英文ができた理由を覚えていたからだ。神様が何かを切り取り（ cut out ）ながら人間を作った。お前は大工、君は理髪師、あんたはリーマン、・・・学者、ゴルファー、予備校講師と。小さな知識をたくさん取り込むから考える能力が育つのだ。

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