予備校講師でわるかったな!





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さう男として 7月22日


  9時半起床、小雨。
  梅雨明けまでもう少し。一息にザバッーっと雨が降れば明ける雰囲気なのに、 その最後の大雨が来ないイメージ。朝食は卵とじキツネそば。豪華だ。


  午後早くに来客。
  友人♀。「日曜なのに休みじゃないのか?」と詰問される。だからさ、講習の 時期は曜日関係ないんだって。「でも日曜日でしょう?」と質問される。いまの 話は聞いていたのか。「駅までお迎えなしって、マジ?」と不平を言われる。い ま予習で追われてるんだって。稼ぎ時なんだって。世間の常識は予備校業界の常 識と一致しないようだ。

  家に関して一通りの説明をする。
  こっちは新居だから嬉しいことだが、相手にとってどうなのかはわからない。 不愉快にさせてはいけないし・・・とくじくじ悩む。女性なので収納の話とか。 一般に、男性だと「広い」とか「狭い」とか「綺麗だ」とか「新しい」とか「冷 蔵庫を買い換えろ」とか、かなり表面的なことを気にする。女性の場合は水廻り がどうとかティッシュペーパーのホルダーがどうとかみたいな、男性からすると 「なんですかそれは?」という項目に注目するようだ。

  予想通り、目の付け所が僕と違う。たとえば灰皿。

友「この灰皿、洗えば?」
僕「やだ」
友「汚いじゃん」
僕「だって1時間以内に汚れるだろ」
友「えー、いつ洗ったの」
僕「そんなん、一度も洗ってない」
友「ありえねー」
僕「前にキレイだったのは12年前だ」
友「・・・どうして?」
僕「ここまで来れば、八丈島のクサヤ汁のようなもの」
友「そういうのと違うんじゃないの」
僕「あるいは、70歳のおばあさんのヌカミソ樽のごとく、『ワタシが嫁に来たと きから毎日かき混ぜてます』みたいな」
友「どう見ても別のモンだろうッ!」
僕「ここまで使い込んで、今さら洗えようか、否」
友「骨とう品なのかこれは?」
僕「もう遺跡発掘とか、壁画の世界だろうな」

  このあたり、妥協点はないようだ。
  一般的には、灰皿は洗うものらしい。でも僕は灰皿は汚れているのが良いと思 っている。むしろ、洗ってしまうと汚れた灰皿にある「美」が失われるような気 分すらある。言い換えれば自分が生きた時間が汚れた灰皿に凝縮されているよう に思えるのだ。キレイなものって、本当に綺麗か?
  ま、この意見を支持してくれる人はあんまりいないだろうなあ。


  校舎へ。
  喫煙所でスタッフに話しかけられる。

ス「先生、元気ですか?」
僕「(なんだそれは?)は、まあ、コマも少ないですし、健康だし」

  あまりに言葉の意味が広い質問というのも対応に困るものだ。
  SARSが流行っているとか、猛暑で倒れる講師が続出しているとか、目の前に全裸女子がいるとか、前日が 風邪で代講を出そうとしたら人手不足で断られたとか、そういう文脈があれば別 だけど。英語で「ハウアーユー?」ととつぜん質問されても困るようなものだ。


  生徒様の質問や相談が増えてきた。
  良いことである。面白かったのは以下の設問に関する質問だ。正解は1でいい として、2の可能性はないかというもの。

問:Please remain (         ).
1、seated     2、sat

  辞書を引いてみたら sit にも「〜を座らせる」という意味があったというのだ。
  リクツの上では正解だろうけど、やはり入試の正解は1だろう。他動詞の sit と いうのは辞書に出ていたとしてもマイナーの度合いが高すぎるからだ。

  近くの席にいた某講師が「すげー質問ですね」と言ってくる。
  「 sit に他動詞があるって知ってた?」と訊いてみると、「当然知らないっすよ 」とのこと。そりゃそうだろう。某講師も僕と同じ歳くらいの中堅講師なので、 十分でなくとも必要な知識は持っているはずだ。

  彼に言わせれば「よく勉強しているというか、無駄というか」となる。
  ある意味では同感だ。つまり「 remain sat とは言わないだろう」という共通感 覚があるからだ。また一方で思ったし言ったことは、「最初はそうやって考える もんだし、それでいいだろう」ということだ。むしろ

「 remain seated だけ覚えればいいや」

として流してしまう生徒様のほうが危険だ(以上の記述について、文末に後日追記があります)

  そして、こうして突き詰めて考えた生徒様が経験を積めば、余計なことを考え ないのも大事なことだと自然に悟るだろう。それが将棋で言うところの

「そんな指し手は1秒も考えない」

というものである。


  帰宅してPCを空けると掲示板『鯨の家』に投稿を頂いていた。
  昨日の日記の「リベラルアーツを知らない」というのはおかしいのでは? と いう趣旨の投稿だった。まあそうなのかも。知らないことを知らないと書くのは すごく勇気のいることで、言うまでもなく確信犯で書いている。全てのことを知 る必要もなければ、調べる必要もないというのが僕の今の考え方だ。

  情報の価値の意味が変わってきている。
  知らないことが愚であった時代は終わり、使わなくなったことを知っているこ とが愚である時代になった。もちろんネットの成長が大きく寄与している。知っ ていることの賞味期限が短くなり、知らないことはいつでもどこでも(しかもす ぐに)調べられる時代になった。


  僕は人生のある時期で、知らないことは知らないままでいようと考えるように なった。
  本当に知る必要のある知識は向こうからやってくると確信している。もちろん 即座に知る必要のある知識は調べる。発音アクセント融合問題で確信が持てない ときとか。でもそういう特殊な場合をのぞけば、知らないことは放置しておこう と考えている。これ以上書くと長くなるのでやめるけど、あくまで個人的信条と してそう考えている。

  たとえば『うさうさ占い』だ。
  3日くらい前に「高校生の8割が『うさうさ』を知っている」と新聞で読んで 驚いた。僕なんか知るも知らないも、聞いたことすらなかったからだ。サイトに 飛んでみると、実に下らなかった。科学でもなければ、占いでもないだろう。ま さか高校生が真面目に信じているはずもないが、血液型占いよりは賞味期限が短 いだろう。

  だから、知らないものは知らないままでいればいいと思っている。
  知らないことは恥だという時代ではない。もしそういう時代があったとすれば 、それは僕が生まれた70年代の前半に終わっているのではないか?


  ところで先の投稿で興味深かったのは「自分では調べず、生徒が単語を調べな いと怒る(要旨)」のは良くないのでは、というアナロジーだった。
  英語の先生が怒る図式を記号化したものとして、「単語を調べない」というも のがまだ通用するとは全く思っていなかった。予想もしなければ予感もしなかっ た。あるいはひょっとして、学校の先生をからかうときに、

「黒板消しを教室の引き戸の上に引っ掛けておき、先生が戸を開けたら黒板消し のチョークでアタマが真っ白になる」

という記号もまだ通用するのだろうか?

  そう思わされるくらい新鮮だった。
  もしかして、いまだに「生徒が単語を調べてこない」と怒っている英語の先生 がいるのかも。あまりにも恐すぎて1度見てみたいくらいだ。すごいな、昭和は まだ終わっていないなと確信できた。ちなみに僕は予備校の教壇に立って14年目 に入ったが、

「単語調べサボリに怒る昭和系英語講師の図」

を演じたことはない。単語暗記サボリに怒ったことは何度もあるけれど。


  今日の西京味噌漬け焼きはスズキだった。
  昨日の失敗を活かして、キッチンペーパーで水分を取ってから焼いたら、美味 しくできた。スズキは夏が旬だということもあるのだろう。

  日本酒は和歌山の『黒牛 純米』。
  すごいネーミングだな。常温で呑んだところ辛めの正統派という感触。これと いった特徴はないけれど、ちゃんと造ってマズマズのレベルに来ているというと ころか。秋になったらヌル燗で試して再評価をしてみたい。

  雨は降りそうで降らない。
  かなりの湿度で息苦しいくらい。夕飯と日記は除湿モードのエアコンの空気の もとで書く。暑いのもイヤだけど、湿度の高いのも嫌なものだ。




後日追記:この日記を書いた半年後、読者様からご指摘を頂きました。「 remain seated は正しい用法で、remain sat は理屈の上でも誤った用法である」というご趣旨でした。ご教授いただいた内容を要約すれば、「 be seated は動作動詞と状態動詞の二通りの使い方がある。remain の後ろに seated が来ているときは、状態動詞の意味になっている。一方、他動詞 sit は動作動詞(そもそも be sat という文がないので状態動詞にはなりえない)なので、remain sat はありえない」ということです。というわけで、この日記の記述には誤りがありました。お詫びします。
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