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生まれる森 3月7日
  20歳前後で芥川賞を取るって結構すごいことだ。
  僕が知っているだけでも村上龍と石原慎太郎と大江健三郎がいる。また一方で、当然のことながら芥川賞を取らないまま立派な作家になる人もいる。むしろ、芥川賞を取ったままどこかに消えてしまった(ように見える)作家も多いはずだ。

  今年2004年の第130回の場合は19歳と20歳の女性の受賞だった。僕は19歳の綿谷りさの作品だけ読んだ。感想は日記に書いたとおりだ。芥川賞は新人発掘のための賞だから、基本的に幼稚というか稚拙な作品のほうが多いらしい。むしろ、その後大きく化けていく可能性がある(ように見える)作品が選ばれるということだ。実際に読んでみると、なるほどそうだろうなあと思わされる。可能性の萌芽を見ることができる、という意味ではない。幼稚で稚拙という意味のほうだ。もちろん、幼稚で稚拙といってもそれは非常に高いレベルの話ではある。


  僕は17歳のときから村上春樹を読んできた。
  それは「ノルウェイの森」を出版した直後だ。リアルタイムで(=作品の発表と同時に読むという意味で)読んだのは1年後、「ダンス・ダンス・ダンス」からだ。それから春樹は僕が32歳になるまで4冊の長編小説を書いた。その4冊=14年間の春樹の小説的な成長はすごかった。もちろん個々の作品に対する好みはあるけれど、作家として成長していく過程がハッキリと読み取れて、まさに円熟の一歩手前まで来ているように見える。僕がだんだんと馬齢を重ねていく一方で、春樹の小説はどこまでも成長していく。その成長を見守る(って偉そうだけど)のがとても素敵だ。僕より30歳くらい年上の人たちは、あるいは大江の作品に同じような気持ちを抱いたのかもしれない。

  個人的な読者にとっての「新人発掘」。
  僕はこの数年それをやろうとしてきて、やれずにいた。だから今年、2人の若い作家が芥川賞を取ったことで、逆に取れなかった島本理生の小説「生まれる森」を読んでみた。ちなみに彼女は、ちょうど1年前の「リトル・バイ・リトル」でも芥川賞候補になり、それを逃している。
  恋愛小説だという歌い文句がついているけど、作家本人があとがきで書いているようにそうでないかもしれない。それはともかく、設定にビックリした。非常に珍しく、僕と同じ職業の人が副主人公なのだ。しかも、結構ヤバメの役割である。ネタバレはやめておく。

  これは完全に僕の責任だけど、どうしても春樹と比較してしまう。
  言うまでもなく春樹の巧みさや大きさに彼女が今の時点で敵うわけがない(日経新聞によれば、彼は日本人の次のノーベル賞作家の候補なんだそうな)。それでも、僕は彼女の作品の中に成長していく可能性を見たい。見たと断言できないけれど、しばらく注目してみよう。長い付き合いになればいいね。
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