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私はビールと夕食の食材を購入する目的で近所のスーパーに向かった。
スーパーの入り口近くにはなぜか必ず野菜売り場がある。野菜は買い物の中では総重量でトップになるので、スーパーの戦略は間違っていない。いうまでもなく、その時期の(あるいはその日の)安売り商品または季節商品がもっとも大きな売り場面積を占める。
その日は「夏野菜の季節到来!」というコピーの元にキュウリ・ナス・トマトの3巨頭が売り場を席巻していた。キュウリはあくまでクールに、トマトはあくまで赤く、ナスはまるで小さな爆弾のように陳列されている。
ナスは爆弾ではないか。
私はそれを心の隅に強く感じながらキュウリを5本セット(群馬産178円)で購入することにした。決して悪い買い物ではない。トマトは憎むべき食材であるから相手にしないし、ナスは油と相性がいいので見なかったことにする。
素早く豆腐コーナーで吟味をして厚揚げを購入することにする。煮物にして食べてやろうと計算をし、なおかつ一緒に煮るべき食材を探す必要を感じる。厚揚げは爽やかながらも味の強い食材なので、あわせるのは野菜に限る。まあ今日のところはサヤインゲンで許してやろうかと野菜売り場に戻る。
しかしサヤインゲンがない。旬だというのに、あるいは旬であるために売り切れてしまったようだ。水菜では弱すぎる。ニラでは煮物にならない。どうするべきか私は逡巡する。
ナスが笑っている。なんだというのだ、ナスの分際で・・・。
しかし私は思い出す。2年前にデパ地下で購入した「ナスと厚揚げの煮びたし」のことを。あれはうまかった。そして高かった。アクのある野菜でありながら、ナスは激しく自己主張をしながら、それでいてマッタリと厚揚げになじんでいた。
ナスがもう1回笑っている。爆弾のような顔をしながら(袋に空気穴が開いているのがその証拠だ)、私に微笑を投げてくるのだ。
「おれを煮てみなよ。爆発するぜ。ぐふふふふふ」
なんということか。たかがナスの分際で、キュウリともトマトとも違う自己主張をしているのだ、この男は。いや、ナスは男なのだろうか。私は手にしているカゴの中にいる厚揚げに質問する。厚揚げは私を黙殺し、ナスは私を許してくれない。
「いいだろう、爆発してやるからさ、俺を触ってみなよ」
私は恐怖と誘惑に負けてナス袋(5個いり神奈川産148円)を手に取る。
ナスはきっと何かを画策しているのだ。
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