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2004年8月某日、僕は戻ることのない(わけがない)旅に出た。行き先は決めていない。
長野か東北か。場合によっては新潟も悪くない。期限は3日で帰れること。条件は山を見れること。新潟はつまらないかな。
9時過ぎに郡山駅でレンタカーを借りる。予約はしていない。なにしろ行き先が本当に決まっていなかったのだ。東京駅で一番タイミン
グが良かったのが東北新幹線。
やい、3日間車を貸せ。金ならある(料金分だけなら)。ヴィッツという小さい車。これで上等。
雨が降り出す。悪くない。国道は市街から離れるにつれて「The 比較級構文」のように道が空いていく。大雨の中を猪苗代へ。観光の余
裕はない。正確に言えば運転にも余裕がない。
僕は車を所有しないのでレンタカーでしか運転をしない。多くても3ヶ月に1回程度だ。でも慎重に運転するし飛ばさないので違和感は
ない。でも大雨じゃあつらいよな、一人旅。カーナビだけが旅の連れ。英語ではtravelling companionという。
親の実家がある会津若松に到着。
ドライブスルーのあるモスバーガーで軽く食事。雨が降っていることだし、中学生のときに連れていってもらった尾瀬の近くまで行って
みようと決心する。2時間以上かかって桧枝岐という秘境へ。ドライブインを見つけて天ぷらそばとビール。山奥でお昼過ぎなのにけっこ
う混んでいる。
酔いを醒ますために車で少し読書。今回の仲間は村上春樹の「スプ恋」。そしてヒルネ。まだ2時にしかなっていないが、とんでもない
山奥なので宿を心配する時間だ。
奥只見湖というものがあるらしい。ちょっと山道が険しいようだが行ってみるか。そこを抜ければ温泉街があるらしい。僕は道路地図を
持参しているのだ。
ちょっと険しいくらいなら問題なかった。そうですね、それは仮定法。地獄のような曲がりくねった道ばかりである。昨日までの大雨で
道路状況がひどい。約20分にわたって対向車がない湖に沿う道。ときどき道路の上に川が流れている。これは文章的誇張ではなくて、舗
装された国道なのに2メートル幅くらい(深さは10センチ程度だが)の水の流れを超えなくてはならないのだ。こんなところでトラブル
をおかしたら確実に遭難である。
「福島山中で遭難、8時間後救助 自称予備校講師」
という見出しを想像する。救助されればいいけどなあ。もちろん携帯も通じない場所なのだ。
独りドライブは楽しくて地獄だ。しかし走り続ければ(←大切な条件)いつか終わりがくる。うん、温泉街に来た。大湯温泉だってさ、
初耳。午後4時過ぎ。いい時間だ。
一番立派そうなホテルの前に車を止める。宿泊客を予想して従業員が出てくる。そこで僕は一発かます。
「あのさあ、今日部屋空いてるかい?」
従業員Aは引っ込み、支配人格のおじさんが出てくる。もうビビッテいる。あの、その。
「あの、お独りでしょうか?」
「そうだよ」
「え、い、1万5000円ならお部屋を用意しますが」
「(ずいぶん高いな、こんなクソ山奥で)ああ、まあいいかな」
「あ、お、ではお車を止めていただいて・・・」
「え、俺が止めるのか??」
「う、ぬ、ええあ、ああ、はい」
チェックイン。料金先払いと言われる。ずばりゴールドカードを切る。受付のお姉さんがひいている。飛び込みで無精ひげを生やした男
がロレックスを腕にしながらゴールドカードを取り出して足元はサンダルなのだ。疑われてるなあ。まあそりゃそうか。
山奥。電車の駅までは車で1時間のようだ。
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