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京成電車は八千代台駅の近くからその車窓を変える。八千代台には奇しくも(というの
かな)市進予備校の校舎がある。緑が濃くなる。正確には、田園風景が広がる。
僕は川村記念美術館に向かっている。京成佐倉駅で降りて、南口のロータリーからバス
に乗るのだ。京成電車の特急は成田に向けて飛ばしている。田園風景どころか、森が見え
てくる。すごい田舎だ。
ロータリーにはタクシーがたくさんいる。言い換えれば、それだけタクシーが必要な地
域なのだろう。僕はヒトの気配が少ないロータリーを散策しバス停を見つける。お米屋さ
んの前にそれはある。美術館の入場券を安く売るよという看板がある。でも、平日の早朝
なので店は閉まっている。
缶入りの紅茶を買って煙草を吸っていると、ちゃんと定時にバスが来た。1時間に1本
の無料送迎バスだ。僕のほかに乗客は3人。60代らしい男性がふたり。やはり不安そう
にたたずんでいた。30代らしい女性がひとり。ひっつめ髪が痛々しい。いや、僕の顔も
そうなのかな?
10分ほどでJRの佐倉駅にバスは立ち寄る。そこからは5人の乗客。そのうち2人は
美術館を経営する会社に向かうサラリーマンのようだ。全員が「一人連れ」で、会話はな
い。バスの運転手も挨拶や案内をするわけではない。これは企業が社員を送迎するための
バスなんだ。
あまりに田舎道で退屈して少し眠る。バスでは本も読めないし、まあしょうがない。目
が覚めたらバスは企業の敷地に入っていく。バスは止まる。美術館の入り口だよな?
しかし乗客は誰も降りない。誰もが「ここ・・・なのか?」という空気を持っている。
運転手が美術館ですよとスーツを着ていない7人のために告げる。そうなんだ。すごいと
こに来たなあ。すばらしい秋晴れだ。恥ずかしくなるくらい。
のんびりした敷地には池がある。ほとりに美術館。うん、ここだ。入場する
。僕の前知識。
1、ピカソ展をやっている
ジャクリーヌ・コレクションが売りのようだ。ジャクリーヌとはピカソが70歳のとき
にめとった23歳の妻だ(すごいな)。彼女を描いた絵がたくさんあるんだろう。
2、企業メセナの美術館だ
企業メセナとは、企業が利益を市民に還元するための文化活動である。大企業でしかで
きないことだ。東京駅の近くにもブリジストン美術館などがある。
3、森の中に散歩道があるらしい
ぼくは整備された散歩道が好きなのだ。
大きな美術館は、ふつう「常設展」と「企画展」を開催する。前者はその美術館が所蔵
する作品を季節ごとに展示し、後者は所蔵に関係なく作品を集めて展示する。
建物に入ると、常設展からスタートだ。あまりにレベルが高くてビックリする。
ルノワール「水浴する女」
モネ「睡蓮」
レンブラント「広つば帽を被った男」
シャガール「ダビデ王の夢」
これらの4つは全て都心の美術館で観たことがあった。どれもが非常に高いレベルにあ
る作品である。同じ部屋には、客は僕のほかに3人くらいしかいないようだ。こんなすご
い作品を心ゆくまで眺められるとは思わなかった。
ルノワールのぬくもり。モネの光。レンブラントの黒。シャガールの叫び。彼らは絵に
どういう想いを込めたのだろう?
企画展のピカソへ。作品のすばらしさとか、展示スペースのゆとりについてはここでは
書かない。小さな子ども向けのリーフレットを入手する。
小学生低学年くらいを目標にして書かれたようだ。絵を見て、想像すること。それにつ
いて語ること。そういう絵画鑑賞の基本が書かれていて、僕もそれを読んで勉強になった
。
>絵描きさんたちについてくわしいかどうかなんて関係なし。絵を知るのに大事なのは、
ただ作品をよく見て、見たものについてよく考えること。
小さなレストランでビールの中ビンを飲みながら昼食。それから散策路を楽しむ。徒歩
で1周30分程度。大きな芝生があり、老夫婦がお弁当を食べている。林の中を走る短い
遊歩道。上着を着て歩くにはちょっと暑いくらいの小春日和。音はない。いや、どこかで
何かの鳥がさえずる。
帰りのバスに乗る。小さくて、大きな秋の幸せ。
追記:ミューズとは、人間の知的活動をつかさどる女神のこと。唯一ではなく、複数存在
するとされた。ピカソにとっては(このエッセイ中では)ジャクリーヌを指す。僕にとっ
ては、ぼくを指す。
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