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1995年3月20日。オウム真理教という宗教団体が都内の3つの地下鉄で猛毒の
サリンを撒いた。死者は15人、被害者は6000人強だったか。正確な数字はわから
ないし、興味もない。
僕はその当日、遅くまで(たぶんお昼近くまで)寝ていた。家の中には家族がいなか
ったと思う。親しい友人から電話がかかってきて、彼女の指示のままにテレビのスイッ
チを入れた。はっきりと記憶しているのは、被害者を一時的に休ませるための青いシー
トだけだ。都心の冷たいコンクリートの上にひかれたシート。救急車。横たわる被害者
。報道関係者。何が起こっているのか、よくわからない。
95年の春、僕はちょうど社会人1年目つまり予備校講師としての1年を終えた直後
だった。とにかく1年を駆け抜けて、何とか来年の雇用も確保して、だからと言って春
期講習があるわけでもないという季節だ。一応は社会人ではあるけれど、あんまりまと
もな社会人ではなかったというところだ。
電話をくれた彼女が事情を説明してくれる。今朝、東京の各地で何かの毒ガスがまか
れ、大混乱が起こっている。すでに死者も出ている。
彼女は日比谷線の広尾駅を利用するサラリーマンだった。その日は月曜日だったが、
たまたま休日が取れてこの事故に巻き込まれなくてすんだという。
「とは言っても、この時間(事件が起こった朝の8時ごろ)は私の(通勤)時間じゃな
いんだけどね」
この事件を知るための本が2冊あるので紹介する。
1つは実行犯の林郁夫が書いた「オウムと私」。林は実行犯でありながらいち早く罪
を認め、この事件の解決のために積極的な自白をした医師である。無期懲役が確定し、
獄中からこの本を書いた。
生い立ちに始まり、正式な医師として活動しながらオウムに傾倒、入信しサリン事件
の実行犯になるまでの自伝である。もちろん、この本を書くことで彼の罪が許されるわ
けもないが、オウム真理教という1つのシステムを内部から正確に描こうとした名著で
ある。
読むかどうかの規準:最後の数ページを先に読んで、どういう過程を経たのか知りたく
なるかどうか。
もう1つは村上春樹「アンダーグラウンド」。村上初のノンフィクション。サリン事
件被害者60人へのインタビューの記録である。村上本人の「サリン事件評」はほんの
僅かしかない(その理由も書かれている)。
「顔のある加害者」と「顔のない被害者」という報道の図式を破るために、被害者の
「顔」を描いている。なんでもない、他の日と見分けのない1日を送ろうとしたら、人
生が変わってしまった。でも、その日が来るまでのそれぞれの人生があったはずであり
、そこに焦点(の一部)を当てている。
読むかどうかの規準:「はじめに」の最後の十数行を読んで、その朝の様子を想像でき
るかどうか。
こういうことを書けばあるいは被害者に失礼かもしれないので先に謝っておく。僕が
この事件に触れて(つまりニュースとして、部外者の立場として知って)から考え続け
てきたことがある。
僕の中にもオウムはいるのだろうか?
人の種類は2つある。自分が宇宙の中にいると考えるタイプか、自分の内側に宇宙が
あると考えるタイプか。僕は後者だ。自分の中に「オウム的」な要素が含まれているの
か? 含まれているなら除外するべきなのか、あるいは触れずに置いておくべきなのか
?
10年たっても、答えにはたどり着いていない。
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