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城南予備校の05年度の出講は現役生だけになった。僕が希望したことである。
城南では採用初年度に浪人だけ、2年目から5年続けて現役・浪人を担当させてもらった。全ての年度が「横浜だけ・月曜日だけ・2限から」という要望であり、実際にそれを許してもらってきた。
だから05年度の出講伺いに
「浪人はやらない。現役だけ」
という希望を書くのは申し訳なかった。対外的にはもちろんだが、予備校講師になって以来11年間、浪人を教えさせて頂かなかったことは1回もなかった。だからこれは僕にとっての大きな決断である。市進は現役専門の予備校なので、今年度は現役しか教えないことが確定したわけだ。
本音を書けば、浪人を担当しないことで通年授業だけで48コマの収入が失われる。しかも自分で手に入れられる(であろう)収入を拒んだことになるから、これほど「割り損」になることもない。不安定が加速するどころか不安定ですらないほど揺れ動いている予備校業界において、最もするべきではないことを僕はやってしまったのだ。
しかし、と思う。僕には試すべきことがある。目の前にある収入のためではなく、10年も20年も先を見ながら仕事を選択すること。
大学入学定員と大学進学志望者の数が同じになる(=理論上は浪人が発生しない)のが2007年度ごろであるという報道があった。数年前まではその「Xデー」が2009年ごろとされていたらしいのだが、進学率が意外に伸びず、新設大学が増加したことが原因らしい。もちろん全ての受験生が「どこでもいいから」進学することはないだろうから、事実上浪人という人種が絶滅することはないだろう。
しかし、浪人生という存在がニッポニア・ニッポン(日本原産のトキ。2003年に絶滅)やイリオモテヤマネコ(猫)のように絶滅危惧種の仲間入りすることは確定である。あくまで噂に過ぎないが、ある大手予備校は2007年度に浪人生向け(?)の生の授業を廃止するという。
言うまでもなく、現役で失敗した大学に入るために浪人する受験生が絶滅することはない。たとえば現役で駒沢に受かったが浪人して早稲田を目指すといったパターンだ。それは浪人を志望する受験生にとっては当然の考え方であり、それを否定する気は全くない。
しかしこの数年の浪人生の状況を見ていると、そのような「現役負け犬→浪人後に勝ち犬」のパターンはそうは多くないと思われる。時代が違うのをいいことに、しかも自分のことを棚に上げてする発言だと先に断っておけば、絶滅危惧種の浪人生を教えることで僕が手にするのは金=時給でしかないということだ。
今になればの話だが、2001年ごろから早稲田を中心とする難関大学に「わりに普通の」現役生が合格するようになってきた。確かに彼らはよく勉強し、実力をつけたから合格を勝ち取っているのだが、深いところで「この学生が普通の受験生に負けるわけがない」と僕に感じさせない生徒様が受かりだしたのだ。
本来ならブッチギリで受かるはずの浪人生が減ってきている。
これがハッキリしてきたのだ。もう少し厳しい言い方をすれば、現役で合格できない生徒が浪人で合格する時代は終わろうとしているのだ。例外はあるにせよ、例外とはマジョリティーではない。つまり生活の糧や予備校経営の基軸にはなりえない。
そういう状況を踏まえて、このまま目先の数年の時給のために時間を使うことが予備校講師専門の僕自身のスキルアップにつながるかどうかを疑問に思ってきた。僕は目先にいくらの給料を稼ぐかという発想ではなく、一生やれる仕事として予備校講師を扱おうと考えるようになっていたので、「いつかは見切りをつけなければ」と考え続けてきたのだ。
今ここで目先の金を捨ててしまうのは勿体ないかもしれない。たぶんそうだろう。でも将来の自分に対する投資にならない(ように僕には思える)時間の使い方をするべきではないと思う。職業というか、仕事とは自分が主体的に選択するべきものであって、状況に負けてやむを得ず引き受けるものであってはならない。
幸いなことに、とりあえず今の僕には守るべき家族すらいない。
不幸なことに、将来に対する経済的・社会的な保証は全くない。
可能性が読みきれないならば、あるいは成功と失敗が同じ確率で待っているとしたら、自分がやりたい道を選択してみるほうが人生は楽しいような気がする。たとえ結果が失敗に終わったとしても、目先より将来を重視するほうが戦略的にも優れているのではないか。
正直に言えばよくわからないし、怖い。浪人を教えるというスキルは実は必要とされていて、その必要を満たすだけの才能が僕の中にあるかもしれない。この決断は、僕の予備校講師人生の「終わりの始まり」になってしまうかもしれない。
それでもあえて、まあ少なくともこの1年間は叫ぶことにする。
現役王宣言! |
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