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僕が大学を卒業したのは1994年3月のことである。サッカーの「J
リーグ」が発足した直後だった。
世間は「なんでもいいから J という文
字を使おう」という気運に満ちていた。
僕が属した英文学科のクラスには酒を飲みにいく8人のグループがあった。
スキを見てはオヤジ酒場に飲みに行くのだ。いわゆる大学生的な盛り上がりを
せず、ひたすら酒を飲んでオヤジ的な盛り上がりを追求し、カラオケなどはも
ってのほか。その中の一人、今は公務員のMKはいつもさっさと切り上げてカ
ラオケにいく事を主張していたが、公僕になろうというやつの意見を斜に構え
た文学部所属の我々が承知するわけもなかった。
「とりあえずビール!」に始まってひたすら同じ店で長居をし、店を出たら
ラーメンを食いにいくという大学生らしからぬグループである。会員は以下の
通り(全て偽名)。
NT:その後予備校講師になる。毒舌・罵倒・下ネタが得意技。酒に強くはな
いが弱くもなく、ダラダラと飲む最悪の人種。いい大人のくせに人見知りが激
しい。
KT:某大学職員になる。学生時代、授業そっちのけでサークル活動(児童文
化研究会)に打ち込み、恋愛を探求するロマンチスト。失恋が多かったがメン
バーの中で最初に結婚し、周囲に勇気と希望を与えた。
YD:競輪に関係する職業につく。メンバー一のまめ男(まめお)。彼のもた
らす試験情報は常に信憑性がとぼしく、ボロクソに陰口を叩かれたものの、そ
のまじめさゆえに憎めない。メンバーの中で唯一ナンパな男。車と結婚を愛
し、小ベンツを駆るが結婚にはほど遠い。
MZ:実家の建具店(新潟県)に就職する。中国神龍空手道をたしなみながら
もかわいい彼女をゲットする。メンバー中で最も酒が強い。
MK:国家2種公務員になる。超多忙な生活と引き換えに国民の血税で暮らし
ている。座談における討論を愛好し、「ケンカを売っている」と
誤解される(本人に自覚はない)。
OK:アングラ劇団員になる。学生オーケストラで活躍する傍ら、学生時代か
ら演劇活動に入れ込んだ。その後カワイイ嫁を取ったと
の噂あり。
TZ:公立中学教員になる。ESS(ディベイト部門)に所属し英語力には定
評がある。学生時代から奇行で知られるが、それでも聖職者。女子バレーボー
ル部の顧問として活躍の噂あり。学校での事件が起きる度、いつも彼の名前が
紙面に載っていないことを誰もが願っている。
YG:塾講師になる。函館出身。音楽サークルに所属し、フォークギターをこ
よなく愛していた苦学生。人当たりのよさが売りで、誰に対しても3人称は「
ちゃん」付け。この10年消息不明。
卒業直前に、この8人が飯田橋の串焼き店に集う。そのうち3人が既定の就
職先を持たず、不安を抱えたまま結束を誓うことにする。会合を持つためには
会の名前が必要となる。
議論をした結果、「J」をキーワードにすることが決まる。串焼きの中にシ
メジがあった。KTが言う、
「しめじ会にしよう」。
訊けば確かにJ(SHIMEJI)の文字が存在することが判明した。時代は
Jなのだから異論が出るわけはない。
しかし、「しめじ会」は第1回の会合を持つことができなかった。誰もが生
活に追われていて余裕がなかったのだ。そして12年の月日が流れて2005
年1月。
NTとKTは渋谷で落ち合い、モツをつまみに死ぬほど飲んだくれる。
この2人はこの8年に渡り、季節ごとに千葉と神奈川から寄り合うようになっ
ていたのだ。KTが提案する。
「この店を機軸にして、しめじ会を再興するべきではないか」
ムッソリーニも陸奥宗光も裸足で逃げ出す提案である。われわれは調印式を
行った。
KTが会長(何もしない)、NTが幹事長(幹事をする)になった。会と言
うからには会則を決める必要がある。
1、とにかく飲んだくれる
2、痛風にならないように気をつける
3、かっこよく年を取る!
大学を出てから12年にもなったのだ。
追記:この文章は幹事長NTが起草し、会長KTが修正し、ふたたびNTが校
正したものです。
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