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essay エッセイ
村上春樹その2 8月6日
ダンス・ダンス・ダンス

あらすじ:
僕は34歳になって、自分がどこに行こうとしているのか把握できなくなる。自分の存在事由を求めて「いるかホテル」に戻り、「羊」に出会う。「羊」は僕にダンスステップを踏み続けろと忠告する。そしてそのホテルで出会った美少女と眼鏡をかけたフロントの女の子を軸とする新しいダンスステップが始まる。札幌、青山、辻堂、ハワイへと舞台は移る。




  読者が物語の中にどこまで自分を投影させるか。

  これは小説好きにとって大切なテーマかもしれない。
  小説の読者は、その物語の中で好きなポジションを得る権利がある。主人公になってみるのもいい。脇役もステキだ。単純に読者として物語の世界を外から見るのもいい。あるいは、描かれる象徴としての雲になるのもいい。


  僕(信原)がこの『ダンス』を手にしたのは88年の10月。現役の受験を控えた18歳のときだ。
  この『ダンス』の語り手である「僕」は小説の中で34歳。83年の3月という設定だ。副主人公と言える美少女「ユキ」は13歳。つまり、僕(信原)と同い年だ。

  小説には僕(信原)が13歳のときに体験した世界が出てくる。
  春樹の小説はリアリズム(現実的にありうる世界を描く小説)ではないものが多いが、デティールは現実に即していることが多い。じっさい、春樹自身は小説中の時間における83年には34歳だった。
  具体的な記述は音楽だ。しかも当時の僕(信原)が愛した洋楽ばかりだ。デュラン・デュラン、Mジャクソン、ボーイ・ジョージ・・・。こういう「ジャンクとしての音楽」を美少女ユキは愛好し、34歳の「僕」は諦めを抱えながらそれを聴く。21歳のときはビーチボーイズを聴いていたのに。


  18歳の僕(信原)は「同い年」のユキのサイドに立って小説を読むことにした。18歳では、34歳の離婚暦のある「僕」を想像することができないから。でも、ユキは女の子だから共感しにくい。
  ちょっとまとめてみよう。

83年
      主人公「僕」34歳、ユキ13歳、信原13歳
88年
      信原18歳(←『ダンス』を読む)
04年
      信原34歳(←このエッセイに着手)


  物語それ自体は、完全な<初期村上春樹>の世界で進む。
  春樹本人も、『ノルウェイ』を書き上げた直後にこの作品を書いたため「自分のフィールドに戻った気分でのびのびと」書いたと言っている。
  今になって思えばということだけど、僕は18歳という一番大切な時期に頂点に達した初期の春樹に接したことになる。
  そして大切なことは、この物語は僕(信原)が18歳、ユキが(物語から抜け出て)生きていれば18歳というタイミングで成立しているということだ。

「ここ(小説中)にいるユキは僕(信原)のことであり、ユキは今では僕(信原)になっているのだ」


  では「僕」は僕(信原)にとってどういう位置を占めているのだろう。
  今まさに、つまりこの文章を書いている05年7月20日の午前2時に、「春樹」と名づけたPC上のファイルのプロパティを見る。その「作成日時」には04年9月30日とある。これらのエッセイは、実際にHPにアップするまで1年近い時間をかけているのだ。

  ファイルを作った日、僕(信原)は34歳と3ヶ月だ。
  物語中の「僕」は34歳と3ヶ月になったころ、物語の核心に近づいていく。もちろん偶然に決まっている。それが何かを証明したり、導いたり、世界を正しい姿に戻すわけではない。

「ここ(小説中)にいる僕は僕(信原)のことであり、僕は今では僕(信原)になっているのだ」

                  ツナガッテイル。


  ハルキストになって17年。自分の存在と春樹の小説をリンクさせることが、少しずつ今の僕(信原)を作ってきたんだろう。
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