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『アジアンタム・ブルー』大崎善生
よくあるストーリーだが、泣ける。
正統派の恋愛小説。
主人公の男性が語り手。
もう1人の主人公は女性。2人は恋愛関係にあった。あるのではない。「あった」のだ。
小説の最初の章で、女性がすでに死んでいることが明確に示される。物語は時間の進行を過去に戻し、最後には「最初の章」に戻ってくる。最愛の人を亡くしてしまって、それでも自分は生きていかなければならない。だから、力を振り絞って立ち上がる。
そうです、『ノルウェイの森』『世界の中心で、愛をさけぶ』と全く同じ構成の小説です。
>「私のことをいつまでも忘れないで。私が存在していたことを覚えていて」と。
>アキの母親は、遺骨の入った小さな壷を膝に抱いている。
>ここは葉子がまだ生きていた頃によく二人で訪れた場所だった。
どれで泣くか、泣かないか、全てに感動するか、感動しないか、それは読者が自由に選べるのだ。
『女流棋士』高橋和
筆者は元女流棋士(そのままやんか)。
棋力よりもその容貌の可愛らしさで人気があったようだが、05年春に引退。。3年に結婚した19歳年上の夫は、前記の大崎善生(←もともと将棋界の関係者なんですね)。
タイトルから予想される女流棋士の実情は、残念ながらあまり描かれていない。少女時代に負った大怪我を抱え、母親の愛情に支えられながら棋士になった精神史のような感じ。
どこに1冊を通したテーマがあるのかよくわからない。テーマの盛り込みが多すぎて、絞込みが少なすぎるという印象だ。
どうせなら別々の本にして「母親と自分を見つめた半自伝」と「女流棋士の実情」にしてもらいたかったんだけどなあ。編集者が無能なのかもしれませんね。
『美輪明宏のおしゃれ大図鑑』美輪明宏
筆者に関しては、生理的な嫌悪感を持つ人がいると思う。
たとえそうであったとしても、かなり昔から性同一性障害であることをカミングアウトしてきたという意味では、歴史に名を残す人でもある。
僕自身は彼女(彼)が特に好きでもないし、あまり興味もない。
ただ、かつてTVで彼女のこういうセリフを聞いた。要旨は以下の通り。
>私がブランド品を身につけるわけがない。
私がブランドなのだから、ブランド品に興味なんか持てない。
負けた・・・orz
とんでもない苦労人(『紫の履歴書』が半自叙伝です)で、大成功を続けるシャンソン歌手である彼女が、最近の若い女性に美意識を持て、と具体的に(←ここがいいところです)説教する。
>では、人を美しくするものは、なんでしょう?
それは、『美意識』です。
本書の内容はこの一言に要約される。
衣服、香水、自分の部屋の装飾、映画、演劇、音楽、男など、美に囲まれなければ自分が美しくなれないという強い主張が一貫したトーン。少々高い本なので、立ち読みだけでもしてみてください。
『インストール』綿矢りさ
ご存知の「最少年芥川賞作家」のデビュー作。1984年生まれの彼女の17歳の作品だ。
彼女の作品については過去の日記で書いたことがあった。
もちろんその時点で僕は『インストール』をハードカバーで買うことができたが、そうせずに文庫化されるまで待っていた。そうだ、そこまでの価値はないと思ったから。
ストーリーは平凡。光るのは文章の良さ。
>まだお酒も飲めない車も乗れない、ついでにセックスも体験していない処女の17歳の心に巣食う、この何者にもなれないという枯れた悟りは何だというのだろう。歌手になりたい訳じゃない作家になりたいわけじゃない、でも中学生の頃には確実に両手に握り締めることができていた私のあらゆる可能性の芽が、気づいたらごそっと減っていて、このまま小さくまとまった人生を送るのかもしれないと思うとどうにも苦しい。
話し言葉でも、もちろん書き言葉でもなく、独り言でも心の叫びですらない。
たたみかける迫力。
ただやはり思うのは、これはしょうがないにしてもその人生経験の少なさ、そこから来るストーリー性の低さ幼稚さ、技術が濃いのに内容が薄い、そこがイマイチ物足りない。
しかし2004年に芥川賞を取ってから長編を1度も発表していないあたり、本人もわかっているのかもしれない。自分を太らせて、もっと厚みのある小説を書いてくれると期待。
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