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最近はこんな読書10 1月6日
  今回は知的大笑(おおわらい)・知的面白(おもしろ)の新書4冊です。


・『もてない男』小谷野敦

  著者は東大卒の文化学(?)学者らしい。ジェンダー論から転じてイロイロな男性論を持っているようだ。
  ズバリ女性におすすめの1冊である。男というフシダラな生き物は何を考えているのか、どうしてこんなにバカ(と女性からは見える)なのか、うまく説明がなされている。

  各章のタイトルもすごい。一部だけ抜粋すると、

「童貞であることの不安――童貞論」
「『おかず』は必要か――自慰論」
「妾の存在意義――愛人論」

という感じ。そんなんアリか?
  参考文献(各章末に紹介する文章がある)のジャンルが幅広いのもいい。漱石の『それから』のような純文学、名香智子『パートナー』のようなレディースコミック、シェイクスピアの『リチャード三世』のような戯曲、高橋留美子『めぞん一刻』のような男性漫画などなど。

  論理的にはメチャクチャなところもあるが、筆の勢いがいいのか笑わせてくれる箇所が多い。ただのお笑いエッセイだと思って読めば、の条件はつきますが、楽しい文章です。
  最後に引用しておきます。カッコ内は僕の感想です。

>強姦されると女はその男を愛するようになるなどと言えば(おいおい)、フェミニストに大目玉をくらいそうだし(だろうなあ)、本当とも思われない(そうだよな)。これは要するに、女のほうから誘惑したりできない時に(そういうこともあるんだ)、女の気持ちを察して強姦してやれとか(マジかよッ)そういうことなんだろうが(んなわけねーだろ)、強姦論は別の回に用意してある(どういうタイトルなんだ、それ)のでここでは述べない(早く読みてぇ)


・『暗証番号はなぜ4桁なのか?』岡嶋裕史

  肩を持つわけでも裏金をつかまされているわけでもないのだが、最近の「光文社新書」は内容がいい。
  まだ300冊も出版されていないから、かなり最近になって創刊されたシリーズなのだろう。もちろん社会全体のバカ化にあわせているのだろうが、読みやすいレベルに落とした内容の本が多く、無学無教養な予備校講師にも読める。

  さて本書。
  まずタイトルの答えが気になる。気になりますよね?
  実は・・・あ、これをバラしちゃまずいか。「なんだそれだけのことなのか」という解答なのだが、本書が語ろうとするのはそこにはない。
  サブタイトルはこうなっている。

>セキュリティを本質から理解する

  銀行の暗証番号に代表されるセキュリティの仕組み・その成立過程を説明するものである。こう書くとカタイ内容に見えるが、文章は口語や小話をたくさんはさんでわかりやすい。暗証番号の煩雑さ(はんざつさ=ややこしいこと)を説明する文章から引用する。

Y「あれっ、またパスワードを間違えた。いやだなぁ。Kさんはいつもいつもよくパスワードを正確に覚えていられますね」
K「わっはっは。俺はその月の誕生日をそのままパスワードにしているからな。忘れるわけないよ。頭を使うんだよ、頭を!」
通りすがりの犯罪者「(・・・今日は10月だから、 tourmaline か。しめしめ)」

  多少は不自然なところもあるが、セキュリティの脆弱さ(ぜいじゃくさ=弱さのこと)を説明するよい例だろう。


・『下流社会』三浦展

  日本人は中流であることに満足してきた。
  そして、ついにその意識は失われつつある。下流でもかまわないという人間が増加しているのだ。

  おっかないネタを扱った本だ。
  いくつかの「階級意識に関する」アンケートを根拠にして、日本人の意識が下流化していることを論証する。このアンケートの説明自体がちょっと読みにくいのが欠点だが、面白いのは調査対象をおおまかに世代で分けていることだ。

<団塊世代>
<団塊ジュニア世代>
<真性団塊ジュニア世代>
<新人類世代>
<昭和ヒトケタ世代>

  1970年生まれの僕は<団塊ジュニア世代>に属することになる。そして下流社会を起動させたのは<真性団塊ジュニア世代>であるという。

  内容に関しても、ショッキングな記述が多い。

>渋谷は階層論的にはもはや最も下流の若者が集まる街
>希望が持てるかどうかが、個人の資質や能力ではなく、親の階層によって規定される傾向が強まっている。
>(問題は)学校にも学校以外にも自己能力感を覚えない高校生が(中略)、学校以外の趣味やサブカルチャーに見果てぬ夢を見続けることであろう。能力がないのに夢だけ見ていて、いつまでも夢から覚めないのは確かに問題だ。

  このほかにも、「下流はネットが大好き」「上流は社交的」「パラサイト女性は加齢とともに意識が下流化する」など、ズバリと現状を指摘する表現が頻出する。

  本書の最後にある提言は「機会悪平等を導入せよ」である。結果悪平等よりいいではないか、というちょい無茶な話である。
  でも、と僕は思う。そのくらい強引なことをしないと、「一部の勝ち組・圧倒的多数の負け組」の社会が実現しちゃうんじゃないかと。予備校の教室は、すでにそうなってきているのだ。


・『食い道楽ひとり旅』柏井 壽

  筆者はヘンなおっさんである。
  文章や略歴から推察するに、京都のボン(お坊ちゃま)にして歯科医であるらしい。

  しかし旅の行動パターンは下賎の民である僕と同じである。
  独りでどこかに旅して、あれこれ食ってウマイだまずいだブツブツ言っている。しかもいちいちデティールにうるさいのがいい。ある食堂での記述。

>先ずはビールを頼み、ひたし豆三百円、鶏なんこつそば五百五十円をアテに飲み始める。ビールは軽井沢の定番「よなよなリアリエール」六百円、これがなかなか旨いのだが、ビール腹になるのを避けて、ワインへと切り替える。砂肝とニンニクのコンフィ五百五十円など、・・・。

  宿と食事には金を惜しまないと言いながらも、コストパフォーマンスを考えた選択を実践している。
  レンタカーは乗り捨てが便利だと言いながらも、酒が飲めないのが欠点だと嘆いてみたりもする。
  僕より20歳くらい年上のようだが、新しいものを取り入れようとする意欲が高くて感心する。50代も半ばになって、キースジャレットのCDを持ち歩くなんてなかなかできない。

  もし僕のエッセイ「激走シリーズ」が好きな人がいるなら、きっとハマると思います。この本の前作『「極み」のひとり旅』も同じ系統です。
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