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貧血、あるいはその暗闇 2月13日
  2006年元旦、「イカスぜ年男」という称号を手に入れた僕はパチンコに 行った。
  キッチリ18000円で大当たりを引き、57回転で連チャンを引き、それ は確率変動絵柄ではなかったにせよ、イカス年男を具現する途上についたとこ ろだ。

  元旦なので寒いから厚着をしていった。
  元旦なので朝から泥酔していた。
  元旦なので店内は混雑していた。

  2回目の大当たりの玉を打ち込みかけた=失くしかけたとき、軽いめまいを 感じた。
  ついさっき、63個の玉でアイスティーを買ったばかりだ。ノドが乾いたの かなと思って飲んでみる。

  おかしいな、もう酔いが覚めてくる時間なんだけどな。
  暑いな。汗が出てくる。急に息苦しくなる。さらにクラっときたのでトイレに立つことにした。店内は混雑しているし、この店に 来たのは初めてなのだ。さっきチェックしたトイレは景品カウンターの右側だ ったような。


  立ち上がると同時に視界が狭まる。
  まずいなと思う。明白あからさまキッカリと貧血の症状である。何とかシマ (=パチンコ台の列)を抜け出して、景品カウンターの前に出る。みぎだ。右。

  視界の範囲を説明するゴイを僕は所有しない。
  時速140キロで高速道路を走っているときのように、前方しか見えなくな っている。見える部分以外は全て暗闇である。とくに吐き気はない。これはま ずい。倒れる直前だ。

  足元が全く見えていないから、何かを蹴っ飛ばす。
  それが何だかよくわからない。何かに足をぶつけ、それが足にからみついて くる。トイレの入り口だけは見える。そこから定期清掃を終えたらしい店員が 出てきてスレ違う。向こうからみたら、「このオッサン、なんでそんなものを 蹴飛ばしているんだ?」となる。貧血は外見からはわからない。


  かつて、貧血に悩まされていた。
  特に夏場の朝がひどく、通勤電車で15分間立っていることができない。腰 痛がそうであるように、貧血もなってみないとわからない辛さがある。6年く らい前、腰痛がサイアクになったのを良い機会として体質改善を図った。でき るだけ多くの食材を使い、たくさん汗をかく。鉄分とビタミンCのサプリメン トを飲む(後者は前者の吸収を助ける)。
  地道な努力は報われて、5年前には貧血を完全に克服した。


  つまり貧血を経験したのは、これが5年ぶりということだ。
  僕はトイレの個室に入り、座り込む。冷や汗が大量に出る。薄着になって、 ベルトをゆるめ、汗を拭く。暑くないのに汗がしたたる。アゴから汗が落ちる なんて日常生活ではありえない。

  貧血は10分も休めば回復する。
  でも、10分前にどれほど苦しかったかを考えると怖くなる。あの暗闇は何 だったんだろう。初経験だったら「俺はこのまま死ぬんじゃないか」と思うく らいの恐怖。


  だからというのもヘンだけど、通勤時間の駅のホームで座り込んでいる人を 見たら(ほとんどは女性だ)優しくしてあげてください。
  本人に声をかけて、駅員さんに伝えるだけでいいから。ちょっと休めば回復 するのに、あの瞬間って地獄に近いんだ。あの苦しさと暗闇って、経験者 でもなかなか想像がつかないんだけどね。
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