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けしからん話である。
居酒屋に行ったとする。W笑とかS木屋のような学生向けの安い店ではなく、少し薄暗くて和風の造りで下駄箱があるような店である。20代後半のOLが2人でも気軽に入れて、おつまみのメニューは380円から980円くらい。人気メニューが「真鯛のカルパッチョ」みたいな店だ。
そこであなたはサントリー・モルツという生ビールを飲み終え、次は日本酒にしようか焼酎にしようか悩む。
ちょっと寒いし、明日は休みだから日本酒の熱燗にしようかとメニューの「日本酒」欄を検討する。そこには「上善水如」や「久保田・千寿」などがあり、全てコップ1パイを単位にした――店員に訊けば1合弱だという――値段が載っている。
んーと、アツカンで飲めるのはどれだろう?
メニューに並ぶ銘柄酒はどれも冷酒だという。それらの銘柄酒は一升瓶入りで、店の冷蔵庫で大切に保存されている。こギレイなカッコをした店員が客の目の前で注いでくれるというパターンだ。
冷酒って気分じゃなんだよな、熱燗の気分なんだよな。
だからメニューで「熱燗」を探す。ページをめくっていく、と最後のほうに「熱燗2合760円」という記述を発見する。やれ、嬉しやと思ったのもつかの間、
熱燗の場合には銘柄の記述がない。イメージとしては、こんな感じ。
冷酒
出羽桜(大吟醸)900円
田酒(純米吟醸)800円
久保田・千寿(特別本醸造)800円
まんさくの花(純米)600円
<以下30種類ほど>
熱燗
大徳利(2合)760円
ずいぶんと扱いが違う。
「冷酒」と「熱燗」というカテゴライズのズレ方もすごいし、カッコ内が突然種類ではなく分量に変化しているのもすごい。熱燗になると銘柄は指定されないのだ(指定されても「剣菱」のようなメーカー名がいいところ)。
さてここで本題に入る。
旨い酒は、冷酒で飲むのが一番旨いのか?
ということである。
原理的には、生酒(なまざけ=製造過程で火を入れない酒)でなければ、どれも熱燗で飲めるはずだ。飲んで悪い理由があるわけではない。
しかし、このような店で「××を熱燗にしてくれ」と頼むのはマナー違反である。正確に言うと、店員に白い目で見られる。
「はあ? お前さ、わかってねーな、旨い酒は冷酒で飲むものなんだよ」
と遠まわしに言われるわけだ(実際に言われたことはないが)。
そもそも、日本酒は日本の寒い地域で作られるものがほとんどである。
もちろん鹿児島などにも有名な日本酒はあるのだろうが、九州に行けばメジャーな酒は焼酎であることは間違いない。沖縄まで南下すると泡盛という焼酎の一種ばかり飲まれている。
日本酒はコメで造るから、コメがよく取れる地域で造られるのが日本酒であろう。米どころとして有名なのは新潟や宮城といった寒冷地である。寒冷地と言っても北海道あたりまで来ると「稲作北限」になるから、コメというのは「ある程度は寒い」地域で作られるというのが主流だろう。
そのような「ある程度は寒い」地域で主に造られる日本酒が、冷酒で飲むのが一番旨いなどということがあるだろうか。
考えてもみなさい。雪が降り積もる山間地で、囲炉裏(いろり)を囲む人々が「やっぱり冷酒だよね、冬は」なんて言っているだろうか。そんなわけはない。沖縄で「泡盛と言えばお湯割りさー」なんて言っているはずがないのと同じだ。
しかるに、昨今の居酒屋の「旨い酒は冷酒で」ブームである。
ブームというのが言いすぎなら、「旨い酒は冷酒で」という不文律である。旨い酒を熱燗で飲むという自然な行為が虐げられ、それを希望するお客様が小バカにされているのだ。できることならば、熱燗派の僕としては、こう叫びたい。
元祖、日本酒は熱燗であった。
今は冷酒である。
日本酒に熱あれ、
熱燗に光りあれ!
どことなくパクリの気配がするから叫ばないが(しかも合成かよ)、とにかく日本酒の現状は嘆かわしいとしか言いようがない。どの店に行っても日本酒は冷されているのだ。この状況をもって、私は高らかに宣言する。
日本酒は冷遇されている
と。
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