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『のだめカンタービレ』 3月3日

  天才肌指揮者の卵・千秋真一と異才肌ピアニストの卵(以前)・野田恵=のだめの2人を主人公とするラブコメ(→注1)。
  あくまでクラシック音楽はたまたま題材に使われているにすぎない。したがって、クラシックの知識が全くなくても楽しめる。

  以下は『のだめ』1〜16巻の感想と、それに関連して考えたこと。
  僕の貧弱なクラシック知識がバレてしまうので、クラシックに詳しい人もそうでない人もさっと読み流して下さいませ。


  千秋の粘着的完全主義に身を寄せて読んだ。
  つまり自分の存在を作品の登場人物に重ねて読むという、小説読解でありがちな読み方だ。僕と千秋の共通点は料理上手・カンペキ好き・粘着質・物事は上から見るという態度・自信過剰。僕になくて千秋にあるのは音楽の才能。棒を振る=指揮をするということと、教壇に立つということの共通点を探しながら読んだような気がする。見つかったかどうかは不明。


  このマンガは、クラシック愛好家からどう思われているのだろうか。
  まず考えられる悪意的な反応は「ふざけるんじゃない」というものだろう。クラシックがわかる(少なくとも自分なりに語れる)ようになるまでの道のりは長い。数年にわたって聴いても初心者の域を抜け出せないだろう。10年聴いて駆け出し、くらいだろうか。そういう世界にいる人たちにとって「ちゃんちゃらしながら都合よく成功していくんじゃねーよ、バカにすんな」という感想はアリだろう。

  おかしな例を挙げれば、仮に予備校講師マンガがあったとする。塾講師から駆け上がっていって10年後にはYゼミのサテライン講師年収5000万、なんていうサクセスストーリー。もしそんなのをたとえば僕が読まされたら「ふざけるんじゃねーボケナス」と思うだろう。それと同じ意味で、ある種の反感を持つのは仕方がないだろう。

  温かい視線も考えられる。
  「こういうマンガからクラシックの世界に興味を持つ人がいれば、落ち目のクラシック界にとって刺激になる」というものだろう。現実に、日本ではクラシック音楽は斜陽である。聴き手としての日本人にあわないのか、演奏家としての技量が日本人にないのか、あるいはその両方なのかは僕にはわからない。しかしクラシックをやる人々が生活できない(アルバイトを掛け持ちにするプロがたくさんいると聞く)という現実が確かにある。

  『のだめ』は爆発的なヒット作品であり、2006年にはTVドラマにもなった。
  ちょうどモーツァルト生誕250年に重なった年でもあり、クラシック業界全体が情宣活動を積極的におこなったような気配があった。しかし残念ながら『のだめ』が契機となってクラシック界が再興(?)することはないと思う。上に書いたように、少なくとも日本で「語れるまで10年かかる」文化が高い地位を占めることはできないだろう。何しろ、1年間それなりに聴いてきた僕ですら『のだめ』の作品に現れる曲を5%も知らないくらいなのだから、ましてや。


  さて最後に、クラシック漫画という観点からするとどうだろう。
  のだめはピアニストなのでマンガの中にピアノ曲がよく出てくる。彼女が演奏するのはピアノソナタ(ピアノ1台→注2)がほとんど。幸いなことに僕はクラシック音楽をピアノソナタから聴き始めているのでイメージが湧きやすかった。

  一方、千秋はピアニストから指揮者に転身したが(→注3)、あくまで指揮者である。
  指揮者と言えば交響曲(いわゆるフル・オーケストラが演じる曲)がほとんどなので、知識のない僕には苦しかった。作曲家の名前でイメージがわけばそれなりに理解できたと思うんだけど、まだ10曲程度しか聴いたことがないからなあ。

  指揮者が必要になるピアノ曲はピアノ協奏曲(ピアノが中心でオーケストラが伴奏するような曲)。
  そうなってくると、未完のこのマンガの最後に扱われる曲は1つ、ピアノ協奏曲しかない。11巻でアイマイながらも恋人関係になった(Aだけw)千秋とのだめが、「ピアノ協奏曲をいつかは一緒にやろう」とするシーンが出てくる。指揮者とピアニストが「重なる」ならそれしかないじゃないか。

  ずばり、最後に演奏されるのはモーツァルトのピアノ協奏曲と見ている。
  一般の読者には意外かもしれないが、モーツァルトはクラシック音楽の中でも「古典」とされているためなのか、このマンガで扱われた曲が少ない。それなのになぜ「モーツァルトのピアノ協奏曲がトリ」になると僕が予想するか?

  それを知りたい人はこのマンガを読んでみてください。
  楽しくて明るい、普通のラブコメですから。


注1:「カンタービレ」は「歌うように」という意味の音楽用語。楽譜に入る演奏の指示のようなものなのか。たとえばモーツァルトのピアノソナタ第8番第2楽章は「アンダンテ・カンタービレ・コン・エスプレッシオーネ」となっている。アンダンテその他、全く理解できず・・・。

注2:「ソナタ」というのは音楽形式の1つで、ピアノ1台とは限らない。「連弾(2台で弾くこと)」もあれば「4手(1台を2人で弾くこと?)」もあるようだ。1人の演奏または1人の演奏に伴奏、というのが基本らしいが、この項では素人さんらしくアバウトに「ピアノソナタ=ピアノ1台」としておきます。

注3:現実に指揮者にはピアノを弾ける人が多い。指揮をしながらピアノ演奏も同時にやってしまうなんてこともあり、それを「弾き振り」という。
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