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プライバシーとは覗かれたくないものであり、覗きたいものである。
「私は違いますッ! 自分のプライバシーは知られたくないし、他人のそれは知りたくありませんッ!」
などと主張するやからもいるようだが、そういう偽善者は無視。
ある日、購入申込書というのを書かされる。
これは正式なエントリーであり、ちゃんとハンコも押すものだ。すでに価格や申し込み物件などの話し合いは各自が済ませているので、それを正式な書面にして提出し申し上げるのである。客はどっちなんだコラ、という話題ではなかった。
僕が受け取った申込書には以下のような記述があった。
1、物件価格
2、自己資金
3、借入金(どこから借りるか)
4、年収
もちろんこれらをハッキリさせないと契約のしようがない。
この申込書を書く場所は並べられたパイプ椅子である。隣の席との感覚は1メートルもないし、前の席との間隔は50センチくらいか。つまり、その気になれば人様の申込書、具体的には上記4項目の数字が覗けてしまうのである。
覗いてはいけません。
覗かれては困ります。
だから覗きます。
これが普通の人間の感情である。ふふふ。
ノゾキのケースを2つ紹介する。
・ケース1
僕の前に座ったおばさん。
30代後半くらいで、体型は少々太め。赤のサマーセーター。赤は膨張色だから、ちょっと良くないでしょ(これは関係ないけど)。
どれどれ、拝見。
1、物件価格→見えない
2、自己資金→800万
3、借入金 →2620万
4、年収 →648万
ほう・・・。
けっこう年収が高いな。ずいぶん細かく書くんだな。おれ、100万以下は切り捨てて書いちゃったよ。
共働きなのか。ダンナではなく奥様一人でご来場か。あるいは、ひょっとして独り者か。だとすると、今はやりの「独身女性マンション購入、負け犬でもいいですから!」のパターンか。人のことは言えないが。
ってことは、物件価格は3420万。
手元の「全戸価格表」を取り出すと、どの物件かわかる。俺の狙いの部屋とは遠いナ。
あれ。
独り者だとすると、年収と年齢のわりに自己資金が少ないような。マンションは一般に、「物件価格の20%以上を自己資金で」という原則があるとか。そのラインは超えているけど、借金の審査に心配があるのかな。それともA型なのか?
いや。
独り者ではない。彼女にはダンナと7歳の娘と2歳の息子がいる。今は賃貸の2LDKでガマンしてきたが、そろそろ娘が色気づいてきた。自分の部屋が欲しいとは言い出さないけど、その気配を同性の親として感じなくもない。
<香奈子37歳(仮名)の独白>
42歳のダンナは東証2部上場の会社に勤めている。
そろそろ課長職が見えてきて、また同時に子どもたちにお金がかかる人生の季節も見えてきている。ここは一つ頑張って、マイホームをマンションでもいいから買ってみよう。でも、今日、ダンナには大切な接待ゴルフがある。今日契約するわけじゃないんだし、会社での立場もあるから家庭の都合として断るわけにもいかない・・・。
・ケース2
隣の席は20代後半、あるいは30代に突入したあたりの夫婦。
おそろいのスニーカーは、白地に赤いラインの入ったコンバース。なんだかねえ。どれどれ、お手並み拝見。
1、物件価格→見えない
2、自己資金→300万
3、借入金 →2970万
4、年収 →420(460?)万
ふむふむ。
物件価格は3270万か。ちょっと自己資金が少ないんじゃないか。年収はまあソコソコとして、ちょっときつめの借金を背負うことになりそうだ。そう言えばこの前の資金説明会で「若い人は収入の上昇を見込めるから、多少キツめのローンでも(銀行が)貸してくれることが多い」って言ってたからかな。
夫「(抽選が)ハズれたらしょうがないよな」
妻「それなら××××(聞こえない)になるからねえ」
購入に前向きな感じじゃないな。
しかし、お揃いのスニーカーから判断すると夫婦仲は良さそうだ。その年でお揃いってのはどうなのかって感じもする。ヤンキー上がりではないようだけど、ヤンキー度25%くらいなのかしらね。
<美沙(仮名)29歳の独白>
夫の俊樹と知り合ったのは25歳のとき。
友だちに合コンめかしたBBQに招かれ、そこにいた俊樹と何となく話をした。ケータイ番号を交換したものの、その後1年ほどは特別な進展もなかった。でも何かの(よく覚えていない)キッカケで2人で食事をした。話しこんでみると意外なほど趣味が似ていた。
特に恋愛や、まして結婚を意識したことはなかったけれど、気がつけば付き合うことになっていて、流れるままに28歳になる前に結婚した。とくに取り得のない、まあ大した学歴も職歴もない夫だけど、趣味があうことはこの上ない。
もうすぐ30になることだし、子どもを作るのはなるたけ遅らしたいけれどマンションでも買ってみようかというノリになった。こういう「ノリ」があうことが人生のパートナーにはふさわしい。抽選は当たってほしいようなそうでもないような。
<俊樹(仮名)31歳の独白>
妻の美沙と出あったのは27歳のときだ。
何かのキッカケ(クロスカントリーだっけ?)で知り合って、数年してみたらよくわからないうちに結婚していた。特に女に不自由したこともなければ、追いかけられて困ったこともない。美人でも俺の好みの巨乳でもないにせよ、とにかく気が合う。
お揃いの服を買おうなんてよく言い出すところが面倒ではあるけれど、とりあえず趣味はあうし、ちゃんと家事もパートもやってくれる。100%ではないにしても85%くらいは相性もいいみたいだ。
そろそろ子どもが欲しくなってきたけど、美沙も俺もそれを口に出す勇気はない。愛の巣作りとシャレこむつもりはないにせよ、ちょっとマンションでも買おうか。でも高いよな。俺の会社(葛飾区にある文房具の部品販売会社)なんてニッチ産業の典型だから、まあロクな未来はない。でもクビになったりはしないからな。どっちかっていうと、この抽選はハズれてほしいかもだけど。
プライバシーを覗くと、どこまでも妄想が広がる。
どこまで本当なのかわからないけど、それでもとにかく。
この項続く。
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