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エリーゼとベトベン 4月27日
  とある授業で余談をしようと思って、時間切れで話しきれなかった。
  長文の内容は

「障害児が障害を克服し、ピアノのリサイタルができるようにな った。ステージで転んでしまい、『障害者は引っ込め』という罵声を浴びるが、 何とか立ち上がりベートーベンの『エリーゼのために』を演奏した」

というもの 。その本文の一部の和訳(意訳します)。

>そのときまでに、そしてその後も、『エリーゼのために』がこれほど怒気にあ ふれてアップテンポで演奏されるのを聴いたことはない


  ベートーベンは音楽家だったんだけど、当時、19世紀の最初くらいかな、貴族 の使用人扱いだったんだよ。
  20年くらい先に生きているモーツァルトは完全に使用人で、ベートーベンの時 代から変わっていったんだよね。ってか、ベートーベン以後は使用人じゃなくて 芸術家として扱われたのが音楽家。正確には、音楽家の地位を向上させたのがベ ートーベンなんだ。食事のときに召使と同席させられると、ベートーベンはキレ たって話もある。

  でね、ベートーベンは作曲家である前に、ピアノ教師だった。
  そう、貴族の娘にピアノを教えるんだ。今もそうだけど、ピアノなんてお金持ちしか持ってないからさ。ベートーベンは恋多き、正確には失恋多きオトコで、貴族の娘にあうたびに恋に落ちる。その貴族の娘の1人がエリーゼなんだ。
  でもさ、しょせんは使用人なんだよ、ベートーベンは。相手にされないんだよね。しかも、ベートーベンは年下趣味。最悪だよオイ。でまあ、教え子のエリーゼに恋をする
  それで彼女のために名曲『エリーゼのために』を作ったわけだ。


ベートーベンの独白
ああエリーゼ、なんて可愛いんだ君は。そうか、僕はピアノ教師だし、ロコツに言い寄っちゃまずいか。よし、ピアノ曲を書こう。そうさな、題名は『エリーゼのために』がいい。練習曲として、教師の僕が書くんだ。教えるのは僕。ああこの僕の恋ゴコロ、きっとエリーゼに届くだろうな・・・。


  数日後。

ベトベン「エリーゼさま。僕はあなたのために練習曲を書いてきましたよ」
エリーゼ「あら先生、ありがとう。なんていうタイトルかしら」
ベト「ふふ、それはね、エリーゼさま」
エリ「あら、ベトベン先生たら、ジ・ラ・シ?」
ベト「な、なにを言うんですか、お嬢さま。それはもちろん『エリーゼのため に』」
エリ「きゃいーん。すてき。ベトベン先生、本当に素敵な方ね」

エリーゼは練習し、ベトベンは教える。

エリ「せんせい、ちょっと疲れたわ。お紅茶でも飲んで休みましょうよ」
ベト「そうですか、お嬢さまがそう言うなら。かたじけない」
エリ「でもね先生、どうして『エリーゼのために』なのかしら?」
ベト「ふふ」
エリ「あらいやだ、ベトベン先生、オヤジ入ってますわよ
ベト「エリーゼさま(真顔)」
エリ「はい?(困惑顔)」
ベト「僕はですね、お嬢さま、君のことを・・・」
エリ「ま、何かしら、先生ったら。髪の毛、逆立ってますよ」
ベト「それは僕のトレードマークです。ちゃかさないでください」
エリ「どうしたの?」
ベト「エリーゼ、いやエリーゼさま、僕は君、いやあなたを嫁に貰いたい」
エリ「な、何をおっしゃるの、ベトベン先生?」
ベト「ほ、本気なんだぁ。エリーゼさま、僕と結婚してください」
エリ「あのね」
ベト「はい?」
エリ「あなた、身分はわかってるの?」


  ベートーベンはどこまで行っても使用人だった。
  貴族と平民のあいだには超えられない壁があった。たとえベートーベンが後世 に「楽聖」としてその名前を残したとしても。


エリーゼの独白
イヤねえ、ベトベン先生ったら。そりゃね、たしかに先生はピアノの教え方も旨いし、音楽のセンスは抜群よ。でもね、先生はね、あ・く・ま・で・平・民。わたしみたいな貴族の娘とは立場が違うの。困ったわ、パパにチクっちゃうしかないのかしら。


ベト「はっ、お嬢様」
エリ「ねえ先生、練習に戻ろうかしら」
ベト「エリーゼさま・・・」
エリ「今の話は、聞かなかったことにするわ」


  こうしてベートーベンの熱き思いは果たされなかったのね。
  このときベートーベンは40歳。その時までも、それ以降も、ピアノ教師として何度も貴族の娘に恋をするが、それがかなうことはなかったんだ。芸術家としての地位を確立したのがベートーベンであるのは事実と言えるけど、先駆者は決して幸福にはなれなかったってこと。

  つまり、『エリーゼのために』はこの本文みたいにさ、「怒気にあふれてアップテンポで」演奏されるはずがない恋の曲なんだ。
  まあ別に今の話を知っていれば入試に有利になるってことじゃないよ、当然。そういう寓話があるから、この表現がかなりの強調だってことになるだけね。シリアスな余談で失敬。


注1:本文のエピソードは事実を踏まえたフィクションである。ベートーベンはこの頃すでにほとんど耳が聴こえなかったはずなので、こういう会話はできなかっただろう。
注2:エリーゼの本名はテリーゼらしい。楽譜に残った乱筆のために「エリーゼのために」と呼ばれる曲になった。
注3:CDやMDの録音単位が「74分」になっていることが多いのは、ベートーベンの「交響曲第9番」の演奏時間が70分ちょっとだったため。この曲を全て収めることができるサイズが選ばれたというわけ。わりに有名な話。

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