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ビデオカメラで撮影中なのよッ! 近寄るんじゃないわよっ!!  






























左のワインレッドがB妻、右の白ベストがA夫。お互いは他人同士だが・・・。  







































































































































ああ、もうワタシ、だめかも・・・。  

















  

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essay エッセイ
テツわる山陰編その3 7月17日
  テツを観察する、それもテツの楽しみ。
  テツの大多数は男性で、それも二十歳前後の若い人が多い。正確には、テツは テツであることを隠す場合が多い。女性(愛称:テツ子)であったり、30歳を過 ぎると、隠す。しかし、ときに隠せないテツもいる。


  宍道(しんじ)から中国地方の山を登る木次線。
  片道2時間半のローカル線。宍道から40分の木次駅までは1日10往復、さらに 1時間弱の出雲横田駅までは1日5往復、さらに1時間の終点備後落合駅までは 1日3往復という最強のローカル線である。最強というのは、廃線が近いという ことだ。

  事態は出雲横田から発生した。
  どうもおかしいのではないかと思っていたのだ。1両編成。乗客は僕を入れて 7人。

・僕
・地元青年
・中年親父
・老年夫婦A
・老年夫婦B

  地元青年は車掌とのやり取りから判断すると岡山まで行くようだ。
  木次より少し山奥の駅で乗ってきたと思う。ちなみに木次から岡山までは5時 間ちょっとかかる(マジです)。ずっと居眠りもせずにMD( iPODなんてものは こんな山奥にはない)を聴いていた。彼はここでは除外。

  残る6人が、テツ・・・。


  中年親父はほっておこう。
  ちょっと目がいっちゃってる感じのオジサンだった。まあその、えーと、ああ いう感じです。この人もこのエッセイからは除外。

  問題は2組の老年夫婦である。
  まず老年夫婦Aは夫(推定69歳)がテツで、妻が付き添いのようだ。 宍道駅で乗り込むときから最善席である「運転手の右ナナメ後ろ」をゲットして いた。もちろん僕もそこを狙ってたのだが負けた。そこで僕は対称の位置になる 進行方向向かって左の一番後ろの席を占めた。

  2時間半もクロスシート(普通の電車のような横向きに並ぶ椅子のこと)はつ らいが、今のローカル線にはボックスシート(総武・横須賀快速線にあるような4 人がけの椅子のこと)がほとんどないのだ。

  次に老年夫婦Bは妻(推定67歳)がテツ子で、夫が付き添い。
  彼らは進行方向右側、1両のど真ん中あたりに席を占めた。これはこれで、車 内の全方向を凝視できるから手であろう。


  おかしいと思っていたのである。
  今は2月末でテツを見かけることは少ない季節だ。前述のようにテツには若い 人が多いこともあり、本格的な実車実践は3月からスタートするのが原則。「青 春18きっぷ」という各駅停車乗り放題の切符が使えるからだ。まして、この木次 線のような特急電車のありえないローカル線ならば、この18きっぷを使わない手 はない。

  まず、この老年夫婦2組は挙動不審なのである。
  前方に座る老年夫婦Aの夫(以下、A夫)は、ことあるごとに車掌に話しかけ ている。ころりと太っていてゴマシオ頭。駅に止まるたび、逆方向へ行 く電車と行き違うたび、何かの疑問(車両運行システムなどについて)が発生す るたびに大騒ぎしている。そのたびに妻がなだめるというか、相手をしている。

  中盤に座る老年夫婦Bの妻(以下、B妻)は、もっとおかしい。
  車内にいる時間の4割くらいは立っているのだ。右へ左へと視線を泳がし、1 時間で20枚くらいは写真を取っている。しかも動きが激しい。ワインレッド のセーターに黒いベレー帽というファッションも光る。ってか、目立つ。正 確には、明らかにちょっとおかしい人である。こっちは夫が付き添いらしい。


  木次駅を過ぎてしばらくすると時間は正午を過ぎた。
  このあたりから車内は空いてきた。乗客は全部で10人くらいか(前述のように この後もどんどん減っていく)。駅弁などというものがあるはずもないから、2 組の老年夫婦は昼食を取り出す。

・老年夫婦A
  普通の駅弁持参。発泡酒と紙コップ持参
・老年夫婦B
  駅弁(押し寿司)持参。ポット入りのお茶持参

  始発駅である宍道駅でも駅弁は売っていなかった。
  恐らく、いずれも松江か出雲市で用意してきたのだろう(夫婦Aは僕と同じく 松江から来たことを確認している)。それにしたって、紙コップまで用意してい るとは。ポットのお茶は宿で入れてもらったのだろうか?
  僕は松江駅構内のサンジェルマン(←よくこんなものがあるよね、こんな田舎 に)でパンを2つ買っておいた。


  「1両編成」は中国地方の山を上り、乗客は減ってくる。
  テツ分は、高まってくる。1日3往復の超ローカル地域に入る出雲横田駅の手 前あたりからか、7人中6人がテツとなる。車内テツ率は8割を超えたわけだ。 日本人の平均テツ率は(軽度障害を含めて)1割と推定されている。ああ。

  出雲横田駅で12分停車。
  この列車は2両編成だったが1両だけ使われていた。どうしてかなと思ったら 、この駅で後ろの1両を切り離すのであった。ゴマシオ頭のA夫はそのあたりを 車掌に確認していたのであろう。
  僕は時刻表を取り出して確認する。うん、この駅から宍道行きが20分後に出る ようだ。ホームで煙草を一服。パンを食べる。


  それぞれの老年夫婦のテツでない2人は、完全な付き添いのようだ。
  連れ添って40年は過ぎているだろう。夫の、妻の、異常なテツ癖(てつへき) にもずっと付き合ってきたわけだ。つらかっただろう。テツは一人旅を好む。テ ツ同士はそれぞれの主義主張を持つから、連れ立って旅をするには向かないのだ 。

  ゴマシオA夫もワインレッドB妻も、家庭をかえりみずテツ道に邁進してきた のだろう。
  それをどちらの連れ合いも苦々しく思っていたのだろう。しかし今こうして老 年期を迎えて、連れ合いがテツであることを認めてあげるしかなくなったのだ。 まだまだ歩くには支障もない60代後半ではあるが、一人旅をさせるには少し不安 が出てくる頃合ではある。仕方がない、夫の、妻の、テツ旅に同行しようじゃな いか。あんまり興味はないんだけど・・・。

  と想像される。
  つまりA夫とB妻の連れ合いはどちらも「それほど」楽しそうではないのであ る。確かに、テツの趣味はテツにしか理解されないのみならず、テツにあらざる 者には意味不明の領域である。車内のテツ数は4人に修正するべきか?


  1両編成はJR西日本で最も標高が高い駅にいたる。
  その前後(どっちか忘れた)には3段式スイッチバックがある。標高差が極端 な場合、ジグザグに山を登るため列車の進行方向が変わるのである。3段式だと 、停車してから1回逆方向に進み再び停車して元の方向へ進むことになる。

  車内の興奮は最高潮に達した。
  ワインレッドのB妻は特に。車両の右へ左へ、字義通りに右往左往。風景と線 路を見るのに忙しく、写真を撮るのももどかしい。もちろん列車は動いているわ けだし、老齢で足元がおぼつかない部分もあるから、車内でブレイクダンスを踊 っているようなものである。顔も紅潮して、ジュリアナ東京のお立ち台で踊り狂 うイケイケギャルのような表情である。
  軽いトランス状態なんじゃないか。脳こうそく起こして倒れないといいのだが ・・・。

  ゴマシオのA夫もにわかに活動的になってきた。
  列車の進行方向が変わるや否や、一瞬のためらいもなく車両後方へ走る。意外 に機敏だなオイ。さきほどの車両切り離しに関する質問からしても、彼は風景よ りも実車よりも運行システムに関心を持つ種族と思われる。その証拠に、彼はカ メラをほとんど使わない。
  目に焼きつけておくのだこの瞬間をば。死ぬ前に木次線に乗れてよかった。


  もちろんワインレッドのB妻も後方へ。
  言うまでもないことだが僕も興奮して立ち上がり後方へ。A夫の妻も、B妻の 夫も座席から腰を宙に浮かせて後方を見ている。さきほどこのエッセイから退場 してもらった2人にも登場してもらうと、あっち系の40代のおじさんも同じく腰 を浮かせている。青年のみ同じ姿勢を維持している(つまらん奴だ)。


     今、ここで、ぼくたちは、テツしている。


  列車は無事にスイッチバックをクリアし、終点備後落合駅に到着。
  我ら6人のテツたちは、今日の大きなイベントが終わったことに小さく落胆し ている。ああ、永遠なれ木次線。
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