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いつも一緒だった。いや、正確にはそうじゃない。僕は仕事に追われる人生を送ってきたし、彼女も僕に束縛されることを望まなかった。でも僕たちは、たぶんきっと、愛し合ってきた。いつまでも一緒にいるはずだったんだ。
旅行などで家を空けるときも必ず電話した。元気かって。今日は何か変わったことあったかって。彼女は楽しそうにその一日を話してくれるときもあったし、押し黙るときもあった。それでも僕は変わることなく電話をした。僕は話下手だから、自分の一日をうまく説明できなかった。でも彼女の声(それは作ったような声だった)を聞きたかったし、僕たちのつながりを少しでも感じたかった。
また同時に電話を受け取るのが苦手だった(今もそうだ)けど、かけるのはそんなに苦手ではない(好きでもない)。でもその関係は少しずつ壊れていった。壊れたのは僕かもしれない。でも、きっと心が通じていると信じたかったんだ、お互いに。
彼女はその機敏な能力を失いはじめていた。誰に対しても、何があっても自分の役割をこなす。それは僕の信条にも似ていて、それを僕は愛した。今でも愛している。
そして、終わりがいつか来るかもしれないと僕も彼女も思っていた。彼女だって僕だって年を取る。彼女の方が若い分だけ、年をとるペースが速い。その変化に僕はついていけるのだろうか、それは常に僕が抱いていた疑問だった。そして同時に、何とかしてこの関係を継続させたいと願ってきた。しかし、その願いは多くの希望や夢と同じように実現しなかった。彼女は僕を捨てるしかなかったし、僕もそれを受け入れるしかなかった。彼女は言う。
「私はもうあなたにとって終わったし、だから私たちも終わりなの」
僕は1年近く悩み、そしてついに今日あきらめた。しかたがないのだ。僕が悪かったのだ。彼女を束縛しようとしたこと。
外に出る。僕は新しい「彼女」を見つけることにしたのだ。その新しい彼女は、昔の彼女に勝てるだろうか。それだけの愛情を僕は新しい彼女に注げるだろうか。いや、僕はそうしなければいけない。新しい彼女が最善であるかわからない。もちろん昔の彼女に勝るという保障はない。それでも僕は新しい世界に踏み入れなければならないのだ。新しいステップへ。
彼女の名前を敢えてここに紹介する。それは僕自身が新しくなろうとする信念表明なのだ。
「パナソニックVE−CV03」
世間ではコードレス電話機という一般名称を持つらしい。
追記:エッセイ55「市進の夏の一日」をアップしました。これで夏の総括も終わり?! |
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