各ページのご案内はコチラ
Copyright (c) 2004
takeshi nobuhara All Rights Reserved.
|
|
以下の文章は「最近はこんな読書」のシリーズに入れるつもりで書きました。
しかし書きあがってみると、カテゴライズとして不適切な気がしたのです。たぶん、これは「世の中研究」と言えるような気がしたってことです。
『文明の憂鬱』 平野啓一郎
芥川賞作家による文明批評エッセイである。
臓器移植、携帯電話、オンライン・ショッピング、プレステ2、狂牛病など、現代にはびこるモノゴトについて批判的な考察をしている。
一部のエッセイに表題と関係のないものがあることを別にすれば、内容に不満はないし、むしろ良く書けたエッセイだと思う。
しかし、この著者の(おそらくは意図的な)表記選択は疑問である。先日の日記では「テレヴィ」について指摘したが、ここでは以下の部分についてイチャモンをつけさせていただく。ファンの皆さん、すいませんね。
例から入ろう。
>駅に這入れない
>レコード店に這入ると
>トンネルに這入った車体に
「入る」と書けばいい部分に「這入る」と書いていることになる。もちろん常用漢字ではないからルビ(ふりがなのこと)がついてくる。そのたびに僕は「どうしてこの漢字なんだろう?」と考えてしまう。
漢字には、その漢字という文字によって意味をイメージさせる働きがある。
たとえば「這入る」という表記を見れば、「何かの中に、這って入っていくのだな」と思わされるはすだ。少なくとも僕はそうである。
だから「駅に」「レコード店に」「トンネルに」の後ろで「這入る」と書かれると、それなりの意味があるのかなと意識してしまう。というのは、この著者は多くの部分でルビを必要とする表記を使っているからだ。
>「先ず」(まず)
>「於いては」(おいては)
>「目処」(めど)
>「呆気にとられて」(あっけ)
などである。
これらの場合なら、「最初に」「場所で」「目安となる場所で」「アングリと口をあけて」なんだな、とイメージできる。もちろん「先に」「於:将棋会館」「呆けて」などの表現から類推するわけである。
つまり、漢字にはあえて漢字を使うことで読者に想起させる働きがある。では、「這入る」はどうなのだろうか。僕が「這入る」という表記に持つイメージで文章を書けば以下のようになる。
作文:秀二は智子のベッドに這入った。
そうかそうか・・・。まあつまり、・・・。僕の頭にはストーリーが描かれる。
「しゅうじ?」
「ともこ・・・」
「やだ、やめてよ」
「そうじゃないよ」
「どういうこと?」
「きみと話すべきことがある」
「なによ、それ」
などと押し問答があるが、結局はメデタシメデタシ、ということである(想像力が豊かというか妄想癖が強いというか)。夜這いという言葉もある。
このように、漢字をあえて使うということには、漢字の表意性により読み手の意識を喚起させる働きがあるはずだ。もちろん漢字を使うことには他の意味合い(ひらがなだけだとぶんしょうがよみにくいからかんじをまぜてつかうよね)もあるのだろうが、どうせ難しい漢字を使うなら必要な場合だけに限定したほうがいいだろう。
ここで僕が生意気にも世の中に提言したいことは、「どうせ漢字を教えるなら、漢字が暗に持つ意味合いもセットで教えるべきだ」ということである。
漢字を知らなくても日本語の文章は書けるが、漢字を使うことで意味の伝達がたやすくなる、そういう漢字のメリットも学習者に伝えるべきではないだろうか。英語のスペルを覚えるのとは意味が違うということである。
というのは、あるネット掲示板(住人のほとんどが高校生)でこういう趣旨の書き込みを見つけたからである。
>予備校のふいんき(←なぜか変換できない)とか教えて・・・
この程度の言語能力で一応は公の場であるネット掲示板に書き込みをする知性が疑われるのは置いておくとして(控えめにいって呆れたが)、なぜこの人は「雰囲気(ふんいき)」を漢字に変換したかったのだろうか。
「雰」という字ヅラに、靄(もや)とか霧(きり)などのイメージを重ねて読む。極端な話、雨というカンムリを使っているから、「ふんいき」と読めなかったとしても、
あー、雨みたいに天から人のところに降りてくる「気」のことか・・・
と何となく意味理解ができる、これが漢字の大切な働きの一つだと僕は個人的に考える。
ひらがなではなく漢字を使う理由はそのヘンにあるのではないか。つまり前述の書き込みをした人も、だからこそ(無意識であったとしても)漢字に変換したかったのではないか。そのときに「雰」が「ふん」と読めるようになっていないのは、教育の落ち度と言えるかもしれない(まぁ本音を言えば、そいつの低脳さゆえかもしれんが)。
だから、芥川賞作家ももう少し考えて漢字を選択してほしーなと、ヘンなことを研究してみました。
|
|